化石の夢

『永遠の森 博物館惑星』 感想

 

 この本は未来の話、地球の衛星軌道上に作られた巨大博物館<アフロディーテ>で起きる事件や出来事を総合管理職の主人公の目線から見た九つの連作短編からなる物語だ。

 

 その内容は音楽が聞こえてくる絵画の鑑定、どこの出どころかも知れない人形の名前探し、バイオ・クロックと呼ばれる植物を用いた人工時計を巡る盗作騒動、小惑星で見つかった未知の種子と彩色片の分析といったもので様々だ。

 

 主人公は<ムネーモシュネー>と呼ばれる検索装置を脳に直接接続しており、それを駆使して問題に取り組んでいく。

 

 <アフロディーテ>とか<ムネーモシュネー>といった固有名詞が出てくる訳だが、他にも<エウプロシュネー>だとか、<アポロン>だとか、<デメテル>という単語が飛び出す話は、よく理解しないとこんがらがりそうになる。

 

 どれもギリシア神話の神の名前から拝借されているので、何を表す神かを知ることができれば頭の中で整理できるかもしれない。

 

 主人公は中間管理職にあたる位置づけであり、人間関係や芸術を巡る事件に散々に振り回される。愚痴も多い。いつの時代も悩みは同じという訳だ。

 

 未来の博物館というだけあって、取り上げられる芸術も多岐にわたる。

 よくこんな設定を思いつくなと思い、さらにその芸術を鮮やかに読者に想像させる描写力はすごいとも思った。

 

 芸術とは何か?

 このテーマはこの本に通奏低音として流れている。

 

 時を超えた愛だったり、未知のものに触れる驚きだったり、才能の持ち主と受け手の関係だったり、芸術を取り巻く人間模様やドラマを読んでいるうちに、主人公と同じように美しさや、綺麗だという感情がどこから来るのか。それを考えさせられた。

 

 蛇足だが、世界中の芸術品を集めるという<アフロディーテ>だけど、自分はもしもの時に備えていくらか分散して貴重なものは保存した方がいいのではないかと思った。

 

 もし何かあったときに芸術品が全部パーなんてことが起こったら大変だからだ。

 

 続編もあるらしい。

 流石にそんなカタストロフィを描く未来はないだろうが。

 

 いつか続編にも手を出したい本でした。